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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』21

Penulis: ひなの琴莉
last update Terakhir Diperbarui: 2025-01-21 16:01:24

数日後――。

俺と黒柳と大澤社長は、大樹の愛する人が滞在している実家へと向かっていた。

大樹には言わないことになっていた。メンバーと秘密事を作りたくなかったが、言わない優しさもあるのかもしれない。

大樹の彼女の家に到着したが、重い空気が漂っていた。

「うちの大事な商品に、傷をつけたお詫びをしていただきたく参りました」

「……と、言いますと?」

「顔に傷がついておりまして、仕事をいくつかキャンセルさせたので」

彼女の父親は大樹を殴ったらしい。当然の行動だと思う。

顔を腫らせて来た大樹が仕事をいくつかキャンセルしたのは事実だ。

「うちの大事な娘を妊娠させておいて、なんですかそれ」

大澤社長と父親のやり取りを黙って見ているしかない。

色んな人の気持ちを考えると、ただただ悲しむしかなかった。

きっと、一番悲しいのはお腹に子どもを宿している彼女かもしれない。

純粋そうなお嬢さんだ。きっと本気で愛し合っていたのだろう。

「ええ。お互いにとって一番いいのは、中絶だと思います。お嬢様の将来のためにも」

「嫌です」

大樹の彼女が震えながら、言う。

「日本中に愛されるべき男をそんなにも、独り占めしたいの?」

「……」

大澤社長の大樹への期待を感じ、大樹の彼女の絶望感が伝わってきた。

言葉に詰まる彼女には、大変申し訳無い。

胸が張り裂けてしまいそうで、本当は今にも泣きそうだった。

だけど、COLORを全力で守らなければいけない理由がある。

俺と黒柳は打ち合わせ通り土下座をした。

「俺らの夢を壊さないでください」

真剣な眼差しを向けた。彼女は頭が真っ白になっているような表情をしていた。

「帰ってください」

今まで黙っていた母が震えながら言う。

「お腹の子供には罪はありません。子供のことは、私たち家族で考えます。不安定な職業の男性と結婚なんてさせられませんし、今後一切関わらないことを約束します。紫藤さんにも娘のところには会いに来ないでと伝えてください」

「ええ。同意見です」

ニコッと笑った大澤社長は封筒を差し出した。

「少ないですが、お詫びの印です」

父は封筒を押し返した。

「いりません」

「あとでいろいろ言われても困りますので」

俺らは俯いているしかなかった。

「紫藤にはしっかりと伝言しておきますね。会いに行っても無駄だということと、未練を持ったら可愛そうなので子供は堕ろしたと伝えます。
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